前回は、水路幅が急に変化する急縮・急拡について説明しました。
今回は、水路幅が徐々に変化する漸縮・漸拡について、形状の変化による損失水頭と、トランジション区間の摩擦損失水頭の求め方を説明します。
水路断面が異なる二つの水路を滑らかに接続する区間を、トランジション(移行区間)といいます。
トランジションのうち、水路断面が流下方向に徐々に小さくなる形状が漸縮、徐々に大きくなる形状が漸拡です。
- 漸縮:広い断面から狭い断面へ徐々に変化する
- 漸拡:狭い断面から広い断面へ徐々に変化する
急縮・急拡は、一つの検討断面の前後で水路断面が急に変化するものとして計算します。このため、検討断面には区間長がなく、摩擦損失水頭は加えません。
一方、漸縮・漸拡では、断面が変化するトランジションに長さLがあります。このため、次の二つの損失を考慮します。
- 水路断面の変化によって生じる形状損失水頭
- トランジション区間の摩擦損失水頭
本記事では、断面変化による形状損失と摩擦損失を分けて表します。
ここで、
- hqc:漸縮トランジション区間全体の損失水頭
- hqe:漸拡トランジション区間全体の損失水頭
- hc:漸縮による形状損失水頭
- he:漸拡による形状損失水頭
- hf:トランジション区間の摩擦損失水頭
です。
「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 設計『水路工』」では、形状損失水頭と摩擦損失水頭を合計したものを、漸縮・漸拡による損失水頭として扱っています。
本記事では、これまでの常流の逐次計算と添字を統一するため、トランジションの下流側を断面1、上流側を断面2とします。
流れの方向は、
上流側2 → 下流側1
です。
- 添字1:トランジションの下流側
- 添字2:トランジションの上流側
「水路工」では上流側を1、下流側を2としているため、本記事では式の添字を入れ替えています。
以下の図は、筆者が確認した参考資料には同様の図が見当たらなかったため、漸縮前後の水深、速度水頭および損失水頭の関係をもとに筆者が独自に作成した模式図です。

漸縮では、上流側2の広い断面から、下流側1の狭い断面へ水が流れます。
漸縮による形状損失水頭は「上下流の速度水頭の差に損失係数を乗じる」として、次の式で求めます。
ここで、
- A1:下流側となる断面1の通水断面積
- A2:上流側となる断面2の通水断面積
- fqc:漸縮損失係数
- V1:下流側となる断面1の平均流速
- V2:上流側となる断面2の平均流速
- g:重力加速度
です。
以下の縦断図も漸縮同様に、筆者が独自に作成した模式図です。

漸拡では、上流側2の狭い断面から、下流側1の広い断面へ水が流れます。
漸拡による形状損失水頭は、「上下流の速度水頭の差に損失係数を乗じる」として、次の式で求めます。
ここで、
- A2:上流側となる断面2の通水断面積
- A1:下流側となる断面1の通水断面積
- fqe:漸拡損失係数
- V2:上流側となる断面2の平均流速
- V1:下流側となる断面1の平均流速
- g:重力加速度
です。
トランジション区間の摩擦損失水頭は、上流側と下流側の摩擦勾配の平均値に、トランジション長Lを乗じて求めます。
ここで、
- L:トランジションの長さ
- n:粗度係数
- R1:断面1の径深
- R2:断面2の径深
です。
この摩擦損失水頭hfは、水路断面の変化によって生じる形状損失水頭hc・heとは別に計算します。
「水路工」に示されるオープントランジションの漸縮・漸拡損失係数の例を以下に示します。
| オープントランジションの形状 | fqc | fqe |
|---|---|---|
| 直線形(長方形開口部へ接続) | 0.10 | 0.20 |
| 直線形(円形開口部へ接続) | 0.20 | 0.30 |
| 台形直線形(長方形開口部へ接続) | 0.20 | 0.30 |
| 台形直線形(円形開口部へ接続) | 0.30 | 0.40 |
| 台形屈曲形(長方形開口部へ接続) | 0.30 | 0.50 |
| 台形屈曲形(円形開口部へ接続) | 0.40 | 0.70 |
漸縮・漸拡損失係数は、本来、トランジションの取付角や断面形状などによって変化します。
『水路工』では、オープントランジションの漸縮角 は、一般に10°以下とされています。一方、漸拡については10°以下とは示されていませんが、掲載されている実験では取付角度を としており、これより大きくなると漸拡による水頭損失が急激に増加するとされています。
実際の設計では、対象とするトランジションの形状と、適用する基準を確認して損失係数を設定する必要があります。
上流側2と下流側1の損失水頭を考慮したベルヌーイの式(エネルギー式)は、次の式で表されます。
漸縮の場合は、
漸拡の場合は、
ここで、zは水路敷高、Hは水深、hcは漸縮による形状損失水頭、heは漸拡による形状損失水頭、hf:トランジション区間の摩擦損失水頭、hqc=hc+hf、hqe=he+hf
そこで、Eは全水頭とすると、
となります。
漸拡では下流側の速度水頭が小さくなるため、損失水頭が生じていても、速度水頭の減少量が損失水頭より大きい場合には、下流側の水位が上昇します。
常流の不等流計算では、下流側1の水深を既知として、上流側2の水深を求めます。
計算手順は次のとおりです。
- 下流側1の水深を既知とする
- 断面1の通水断面積、流速、径深および全水頭E1を求める
- 上流側2の水深を仮定する
- 断面2の通水断面積、流速、径深および全水頭E2を求める
- トランジション区間の摩擦損失水頭hfを求める
- 漸縮または漸拡による形状損失水頭hc・heを求める
- E2とE1に各損失水頭を加えた値を比較する
- 両者が一致するまで上流側2の水深を変更する
漸縮の場合の誤差εは、次の式になります。
漸拡の場合は、次の式になります。
この誤差が0に近づくように、上流側2の水深を繰り返し修正します。
漸縮・漸拡では、水路断面の変化による形状損失水頭と、トランジション区間の摩擦損失水頭を考慮します。
- 漸縮・漸拡は、長さLを持つトランジションとして計算する
- 形状損失水頭と摩擦損失水頭は別々に求める
- 両者の合計がトランジション区間全体の損失水頭となる
- 漸縮・漸拡損失係数は、トランジションの形状に応じて設定する
- 常流では、下流側1の水深を既知として上流側2の水深を求める
急縮・急拡では区間長がないため摩擦損失水頭を加えませんが、漸縮・漸拡ではトランジション区間の摩擦損失水頭を加える点が大きな違いです。
- 農林水産省「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 設計『水路工』」
- 【水理学基礎講座⑤-5】急縮・急拡による損失水頭の求め方
- 【水理学基礎講座⑤-2】逐次計算法による水深の求め方
