前回の講座④では、等流計算の基本的なプロセスと「河床勾配 = 動水勾配 = エネルギー勾配」になる理由を解説しました。
今回は、実務で誰もが使う「マニングの公式」のちょっと深い真実についてお話しします。
ベルヌーイの式に出てくる「摩擦損失 hf」。これ、一体どうやって具体的数値として計算しているのか不思議に思ったことはありませんか?
実は、このhf の正体こそがマニングの公式なのです。

位置水頭(Z)、圧力水頭(H)、速度水頭(V2 / 2g)は、水深や流速から直接計算できます。
しかし、末尾にある「摩擦損失 hf(水理抵抗によって失われる水頭損失)」だけは、ベルヌーイの式単体では数値を弾き出すことができません。
この「正体不明の hf」を具体的な数値として計算できるようにしてくれるのが、マニングの公式です。
この式を、勾配 I(摩擦損失勾配 If)について解き直すと次のようになります。
摩擦勾配 If とは「距離 1m あたりに失われる摩擦損失」のことです。
したがって、区間距離を L とすると、実際に発生する摩擦損失 hf は、この勾配に距離 L をかけることで求まります!

これこそが、「ベルヌーイの式の中にあった摩擦損失 hf の具体的な計算式」です。また、H26.4版河川砂防技術基準(調査編)P.214の一次元不等流計算の基本式に、摩擦損失の項Trにこの形の式が記載されています。
等流の場合、摩擦損失はマニングの公式を用いてVが与条件になってIf を逆算しているので摩擦損失勾配Ifは、エネルギー勾配Ieと同じになることになります。(漸縮など、その他の損失があればそれを含めた合計がIeと同じになりますが今回はそこまで考えません。)
水力学の教科書で一般的に使われるダルシー・ワイズバッハの損失式は次の通りです。
ここで、マニングの公式から導かれる摩擦損失係数 f’ の関係式:
をダルシー・ワイズバッハの式の f’ に代入して整理してみます。
見事に先ほど導いたマニングによる hf の計算式とまったく同じ答えが得られます。
このように、摩擦損失係数 f’ を定義・設定することで、管路の理論式(ダルシー・ワイズバッハ)の枠組みの中でもマニングの経験式を矛盾なく扱えるように整合させることができるようです。計算式の形は二通りありますが、f′ をマニング式から求めている限り、理論的には別々の抵抗計算法ではありません。マニング式を別の形に書き換えているだけです。
「マニングの公式=等流計算専用の式」と思われがちですが、不等流計算では、マニング式を利用して摩擦勾配 If を求め、そこから区間の摩擦損失 hf を計算します。
- 等流の場合エネルギー平衡の状態にあるため、図面や現地から分かる河床勾配 I(= If)をそのままマニング式に代入し、一発で等流水深や流速を算出できます。
- 不等流の場合水深や流速、断面形が区間ごとに変化するため、河床勾配 I と摩擦勾配 If は一致しません。そこで、微小な区間 L ごとにマニング式からその区間の摩擦勾配 If を算出し、区間長 L をかけることで「その区間で発生する摩擦損失 hf」を求めます。この摩擦損失 hf を差し引きしながら、エネルギーの減衰とともに隣接断面の水位の変化(水面形)を1ステップずつ追跡していくことになります。
マニングの公式は、単に等流時の流速や水深を弾き出すだけの式ではありません。
ベルヌーイの定理における「摩擦損失 hf を具体的に求めるために利用できる式」だったのです。
「マニング式から摩擦勾配 If を求め、エネルギーの減衰(摩擦損失 hf)を追う」という計算プロセスを理解しておくと、次回解説する【水理学基礎講座⑤】「不等流計算」のアルゴリズムがすんなり頭に入ってくるようになります!
