前回の「【水理学基礎講座⑤-5】急縮・急拡による損失水頭の求め方」では、水路の急縮部と急拡部で発生する損失水頭について説明しました。
形状が明確な水路では、急縮損失係数や急拡損失係数を用いて、断面変化によるエネルギー損失を計算できます。
一方、河川には次のような特徴があります。
- 河岸線が不規則である
- 河道幅が連続的に変化する
- 砂州や樹木群が存在する
- 流量によって主流部の範囲が変化する
- 急拡部や急縮部に渦や逆流が発生する
このため、河川の急縮・急拡に対して、水路と同じように局所損失係数を設定することは容易ではありません。
河川の一次元不等流計算では、流量の流下にほとんど寄与しない範囲を「死水域」として設定し、河積から除く方法があります。
今回は、河道を対象として、急縮・急拡損失をについて死水域を設定した方法での水面形を計算します。
さらに、次の二つの比較も行います。
- 死水域を設定した場合と、設定しなかった場合
- 河川として死水域を設定した場合と、水路として急縮・急拡損失を計算した場合
なお、本記事では死水域の基本的な考え方と試算結果を取り上げます。死水域との境界における潤辺、粗度係数などは本計算では適切に設定しておりますが、具体的な設定方法については、河道条件に応じて一概とは言えないと判断し、今回は詳細には立ち入りません。
1.死水域とは
死水域とは、水面が存在していても、流量の流下にほとんど寄与しない範囲です。
死水域では、流速がほぼゼロになっている場合だけでなく、閉じた渦や逆流が発生している場合もあります。
死水域は、主に次のような場所に形成されます。
- 河道の急拡部
- 河道の急縮部
- 河道の湾曲部
- 樹木群の背後
- 橋脚などの構造物の背後
- 砂州や河岸の凹部
同じ河道であっても、流量や水位によって死水域の範囲は変化します。
したがって、河道内の水面下にある範囲のすべてが、流量の流下に有効な河積になるとは限りません。
2.死水域を河積から除く
河川砂防技術基準 調査編では、樹木群や河道の急拡・急縮などによって死水域が形成される場合、該当する計算断面において、死水域に相当する部分を河積から除く考え方が示されています。
死水域を除いた断面が、流量の流下に寄与する有効流下断面です。
有効流下断面積は、次のように表せます。
一次元不等流計算では、有効流下断面積を用いて平均流速や水位を計算します。
死水域まで有効な河積として計算すると、実際には流れていない範囲も流量の流下に寄与することになります。その結果、断面平均流速が実際より小さく計算され、水面形に不自然な変化が生じる可能性があります。
3.死水域の境界
死水域の境界は、河道の平面形状、樹木群、砂州、構造物、流況などを踏まえて設定します。
「中小河川計画の手引き(案)」などでは、急拡部と急縮部に死水域を設定する場合の目安として、次の角度が示されています。
- 急拡部:5度
- 急縮部:26度
これは、河岸線そのものではなく、主流部と死水域との境界を平面的に近似するものです。
また、死水域との境界を縦断的に反映できるように、必要に応じて内挿断面を適切に設定します。
なお、平均流速公式レベル1またはレベル1aによる単断面計算では、断面分割を前提とした境界混合係数は適用しないものと筆者は考えます。
ただし、実際の計算では、採用する解析方法、河道形状および現地の流況を踏まえた判断が必要です。
4.計算条件
今回は、断面の急拡・急縮部として、断面形状は比較しやすいように河道を単純な矩形断面としました。
流れは、図の右側から左側へ向かっています。
距離80m地点で河道が急拡し、距離40m地点で急縮します。(以下「死水域あり」)

図1 河川の急縮・急拡部に設定した死水域(死水域あり)
計算条件は次のとおりです。
- 流量:10.0 m³/s
- 通常部の河道幅:5.0 m
- 拡幅部の河道幅:7.5 m
- 最大死水域幅:2.5 m
- 河床勾配:1/1,000
- 粗度係数:0.015
- 流れの状態:常流
- 下流端水深:等流水深
急拡部には5度、急縮部には26度の境界を設定しました。
死水域を除いた有効流下断面が縦断方向に変化するように計算断面を配置し、一次元不等流計算を行っています。
この河道は死水域による影響を確認するために単純化した計算モデルであり、特定の実河川を再現したものではありません。
5.死水域を設定した河川の水面形
次の図は、死水域を除いた有効流下断面(死水域あり)を用いて計算した縦断水位です。

図2 死水域を設定した河川の縦断水位
計算の結果、死水域を設定した区間では、その前後にある河道幅5.0mの区間よりも水位が上昇しました。
今回の条件では、死水域区間の中央部付近の水位が、急拡部および急縮部付近の水位より約0.1m高くなり、縦断的に緩やかな山形の水面形となっています。
流れは図の右側から左側へ向かっています。
距離80mの急拡部から下流へ進むと、5度で設定した死水域の境界に沿って有効流下断面が徐々に広がります。有効流下断面が広がると平均流速と速度水頭が小さくなるため、その分だけ水位が上昇します。
さらに下流へ進み、距離40mの急縮部に近づくと、26度で設定した死水域の境界に沿って有効流下断面が狭くなります。有効流下断面が狭くなると平均流速と速度水頭が大きくなるため、水位は低下します。
このため、死水域を設定した区間では、水位がいったん上昇した後に低下する水面形となりました。
距離80mから約51mまでの区間では、流下方向である右から左へ進むにつれて水位が上昇しています。
この区間では、有効流下断面が徐々に広がることによって平均流速が低下し、速度水頭が小さくなります。速度水頭の減少量が摩擦による損失水頭よりも大きいため、エネルギー線は流下方向に低下しながら、水位線は上昇する結果となりました。
死水域を設定した場合でも、水面形の上昇や下降がなくなるわけではありません。死水域の境界に沿って有効流下断面が変化することにより、今回のような滑らかな山形の水面形が生じる場合があります。
なお、今回の計算は常流を対象としたものです。射流では、有効流下断面が広がると水深が低下する方向に働くため、今回とは異なる水面形になる場合があります。また、急縮・急拡の程度によっては限界水深や跳水などが生じる可能性があるため、別途検討が必要です。
今回の計算では、死水域を設定した区間において、水位が前後の区間より高くなる結果となりました。
このような水面形が実際に生じるのかを確認したところ、今回の河道とよく似た形状を対象とした水理実験がありました。
藤田一郎・小澤純・長浜弘典「直線開水路に設置された側岸凹部が主流に与える影響について」では、直線水路の片側に細長い凹部を設け、常流における水面形を実験と二次元解析によって検討しています。
実験水路の主流幅は20cm、側岸凹部の奥行きは10cmで、拡幅後の全幅は30cmです。全幅と主流幅の比は1.50となり、今回の計算における7.5mと5.0mの比と一致します。
また、実験に用いられた長い側岸凹部の縦横比は15です。今回の計算では、拡幅区間長40mを最大死水域幅2.5mで除した値が16となるため、平面形状の比率もよく似ています。
この実験では、側岸凹部内に剥離流や循環流が形成され、長い側岸凹部の区間では、水深が直線水路の場合より約20%増加しました。さらに、凹部で生じるエネルギー損失の影響により、凹部上流側の水位が5%以上増加したケースも示されています。
論文の図-3では、側岸凹部の区間において水深が山形に上昇し、その後再び低下する結果が確認できます。
この実験は、死水域を除いた一次元不等流計算を直接検証したものではありません。しかし、常流において、急拡・急縮を伴う側岸凹部に循環流が形成され、周辺より水深が大きくなる現象が実際に確認されています。
したがって、今回の計算で得られた死水域区間の滑らかな水位上昇は、実際の水理現象と定性的に整合する結果と考えられます。
参考:藤田一郎・小澤純・長浜弘典「直線開水路に設置された側岸凹部が主流に与える影響について」応用力学論文集、Vol.4、pp.549-556、2001年
6.死水域の設定有無による比較
次に、次の二つの計算結果を重ねて比較します。
- 死水域を河積から除いた場合(上記と同様に「死水域あり」)
- 死水域を設定せず、河道全体の河積を有効な流下断面とした場合

図3 河川の急縮・急拡部に死水域を設定しない

図4 死水域の設定有無による河川の縦断水位の比較
死水域を設定しない場合は、距離40m地点と距離80m地点において、水位が急激に変化しています。
これは、河道幅の変化地点で河積が5.0m幅相当から7.5m幅相当へ、または7.5m幅相当から5.0m幅相当へ急変するためです。
拡幅部の河積をすべて有効な流下断面として扱うと、流量の流下にほとんど寄与しない範囲まで平均流速の計算に含まれます。
その結果、拡幅部では平均流速と速度水頭が小さくなり、常流計算では水位が高く計算されます。
先にも述べましたが、死水域を設定した場合は、有効流下断面が縦断方向に徐々に変化するため、水面形も比較的滑らかな曲線になりました。
今回の計算は「中小河川計画の手引きP.117」と同様に「断面変化を考慮しない場合の水面形」に対して「断面変化を考慮した場合の水面形」が相対的に低くなりました。
ただし、手引きP.117の「断面変化を考慮しない場合の水面形」はその上下流の水深とほぼ同じです。これは粗度係数や常流・射流や潤辺などの条件により深くなることもあれば浅くなることもあるのだと思います。
平成9年の「河川砂防技術基準 調査編P.122」には、死水域を考慮しない場合、計算水面形に「実際には生じない凹凸」が生じることがあると記載されています。
ここでいう「実際には生じない凹凸」とは、急縮・急拡部に水位変化が一切生じないという意味ではないと考えられます。
死水域を有効な河積として扱ったことにより、図4のように計算断面の位置で局所的かつ急激に現れる水位の変化等を指していると考えられます。
死水域を設定しても、水面形の高低がすべてなくなるわけではありません。有効流下断面と平均流速が実際に変化すれば、緩やかな水位の上昇や下降が残ることはあり得ます。本計算は常流の死水域で上昇が生じる計算になったということです。【コラム】水路幅を狭くすると水位は下がる!?でも同様の傾向を確認できます。
今回の計算でも、水面形の変化そのものは残っていますが、死水域を設定した方が縦断的に滑らかな形状となりました。
7.水路の急縮・急拡との比較
次に、同じ平面形状を水路として扱い、死水域の設定ではなく急縮・急拡損失で計算します。
具体的には、急縮部と急拡部に局所損失係数を設定し、断面変化による損失水頭を考慮しました。

図5 水路の急縮・急拡部の平面図
河川と水路の主な違いは、急縮・急拡の影響を計算に取り込む方法です。
| 計算方法 | 急縮・急拡の表現 |
|---|---|
| 河川としての計算 | 死水域を河積から除き、有効流下断面の変化として表現 |
| 水路としての計算 | 急縮損失係数と急拡損失係数による局所損失として表現 |
次の図は、水路として急縮・急拡損失を計算した水位と、河川として死水域を設定(死水域あり)した水位を重ねたものです。

図6 急縮・急拡の計算方法による縦断水位の比較
水路の計算では、急縮部と急拡部の位置に局所損失を与えるため、断面変化地点で水位が比較的急に変化します。
一方、河川の計算では、死水域の境界に沿って有効流下断面が変化するため、水位の変化が一定の区間に分布しています。
このため、同じ平面形状、流量、河床勾配および粗度係数を使用しても、水面形は同じになりません。
ただし、どちらの方法でも、急縮・急拡が水位に影響を与えることは確認できます。
今回の比較は、二つの計算方法から同一の水位を得ることを目的としたものではありません。
河川では死水域による有効流下断面の変化として捉え、水路では局所損失として捉えるという、モデル化の違いを確認するための試算です。
8.まとめ
河川の急縮・急拡部では、渦や逆流によって、流量の流下にほとんど寄与しない死水域が形成されることがあります。
河川の一次元不等流計算では、この死水域を河積から除き、有効流下断面を用いて水位を計算する方法があります。
今回の要点は次のとおりです。
- 河川では急縮損失係数や急拡損失係数を適切に設定することが難しい
- 死水域を河積から除くことで、急縮・急拡による影響を有効流下断面の変化として表現できる
- 死水域の境界の潤辺・粗度係数と内挿断面は、河道形状を反映できるように適切に設定する必要がある
- 死水域を設定しない場合、拡幅部の河積を過大に評価し、不自然な水面形が生じることがある
- 死水域を設定しても、水位の上昇や下降がすべてなくなるわけではない
- 水路の局所損失による計算と河川の死水域による計算では、水面形の表れ方が異なる
- 河川は「死水域の設定」で、水路は「急縮・急拡損失の考慮」により、両方とも急縮・急拡が水位に与える影響を確認できる。
死水域は実際の河岸や構造物のような明確な境界ではありません。
実河川へ適用する場合は、平面形状、現地の流況、航空写真、洪水痕跡などを確認し、計算目的と必要な精度に応じて設定することが重要です。
- 国土交通省「河川砂防技術基準 調査編」
- 建設省河川局監修「河川砂防技術基準 調査編」平成9年
- 国土技術研究センター「河道計画検討の手引き」
- 国土技術研究センター「中小河川計画の手引き(案)」
