これまで、クーロンや試行くさび法などの土圧算定法について解説しましたが、擁壁に作用させたときに擁壁が設定した断面形状で安定するかどうかを計算により確認(照査)する方法を解説いたします。道路土工擁壁工指針や参考書を見れば分かると思いますが重要な部分ですし「土圧だけの解説だと中途半端だな」という感じもしましたので解説したいと思います。
安定計算は壁体が土圧の作用により滑動・転倒をしないこと。および地盤による支持が可能かを確認します。要するに「滑動」「転倒」「支持」の3つを照査します。
滑動の照査は、擁壁の底面で滑らないか確認します。作用する水平力Hに対して、擁壁重量で底面と地盤の摩擦・粘着力による抵抗力が所定の安全率Fsを確保できれば安全となります。抵抗力の一般式中にCB・B’の粘着力による抵抗力の項がありますが、これは一般的には期待せず、ΣVμによる摩擦抵抗のみとすることが多いです。ΣVμによる摩擦抵抗ではB’(有効載荷幅B’=B-2e)は関係がありません。
μは摩擦係数でμ=tanφBとされています。φBは条件によりφB=φ(せん断抵抗角)やφB=2/3φとすることなどとされていますが、道路土工擁壁工指針P.70にはμの一般値が示されていまして、砂質地盤ではμ=0.6、粘性土地盤ではμ=0.5とされています。
滑動がネックとなって照査がOUTになった場合、底版幅を広げるというよりも、重量を増やすことが必要になります。

照査方法 常時Fs ≥ 1.5 地震時Fs ≥ 1.2
転倒の照査は、擁壁の前面の下端(つま先)を回転軸にして、土圧に抵抗する土圧鉛直成分V1と擁壁自重V2の抵抗モーメントの合計ΣMrと、擁壁を転倒させようとする土圧水平力Hによる転倒モーメントMt(今回のケースは=ΣMt)とを差し引きし、残ったモーメントの値を鉛直力の合計ΣVで除せば、つま先からの土圧合力位置dが計算できます。そして、算出したdの底版中央からの離れ距離としてdと底版幅の1/2の差が偏心量eとなります。偏心量eが底版中央から常時ではB/6以内、地震時ではB/3以内の位置であれば転倒に対し安全とします。
この常時のeはB/6は底版中心から両側振り分け距離ですが、底版幅BのB/3なのでミドルサードと呼ばれています。このミドルサードに合力が入っていれば、底版反力が次の支持の照査①で示すように台形分布となり底面に浮き上がりが生じず、擁壁本体に引張応力が生じないというものです。ミドルサードを外れると②のように底版反力が三角形分布となり端部で浮き上がりの力が生じます。(地震時はe≤B/3(底版幅Bの2B/3)とミドルサードを少し外れ浮き上がりは許容される考えです)でも本当に転倒して倒れるわけではなく、力学的に倒れるのはMr<Mtの場合です。
また、下記に示す式からするとeがマイナスの場合は底版中央より背面側に寄っていて、プラスならば前面側に寄っていることになります。これ、いつも数字だけみてどちら側へ寄っているのか分からなくなる場合がありますよね。
転倒がネックとなって照査がOUTになる場合には擁壁前面勾配を調整するか、擁壁前面が垂直面の場合には底版のある逆Tタイプにするなどが考えられます。

照査方法
支持の照査は、上記で求めた鉛直力ΣVと偏心量eを使うことで底版に発生する地盤反力度を求めることができます。式は常時が下記①で、地震時にミドルサードを越えた時には②が基本になります。下の式で求めたq1,q2が許容鉛直支持力度qa0以下であれば、地盤支持は安全です。qa0の値の一般的な値は密な砂質地盤であれば常時は300kN/m2、地震時は450kN/m2(常時の1.5倍)です。H24道路土工擁壁工指針P.68~P.69 に詳細に許容鉛直支持力度の記載があります。
支持がネックとなって照査がOUTになる場合、底版幅を広げるか地盤改良を行うかなどの対策になります。

①荷重の合力作用位置がミドルサード内にある場合
照査方法 q1,q2 ≤ qa0
②荷重の合力作用位置がミドルサードの範囲から2B/3の範囲にある場合
照査方法 q1 ≤ qa0 ※地震時のqa0は常時の1.5倍としてよい。

今回は、擁壁の一般的な安定計算方法について解説しました。今回は重力式擁壁としてまして、他の形式である逆T擁壁やもたれ擁壁など他の形式にも基本的な考え方としてこれが確認できていれば、すぐに他形式の擁壁も理解することができると思います。また、ときどき思い出せなくなったらこれを見ていただければと思います。
