前回の「【水理学基礎講座⑤-1】不等流計算とは」では、不等流では水深や流速が流下方向に変化するため、隣り合う断面のエネルギーの関係から水深を順番に求めていくことを説明しました。
今回は、一次元不等流計算で広く用いられている逐次計算法について、実際にどのように水深を求めていくのかを説明します。
逐次計算法とは、水路を適当な計算区間に分割し、既知の断面から順次次の断面の水深を仮定して、ベルヌーイの定理によるエネルギーの照合を行いながら水深を求めていく方法です。
常流の場合は、下流側の水深を境界条件として、下流から上流に向かって計算します。
ここでは、「土地改良事業計画設計基準・設計『水路工』」に合わせて、下流側を断面1、その一つ上流側を断面2として説明します。
流れの方向は、
断面2 → 断面1
です。
断面1の水深は既知であり、この既知の水深を使って、上流側にある断面2の水深を求めていきます。

開水路の水頭縦断図
断面1と断面2の間にベルヌーイの定理を適用すると、次の式になります。
ここで、
- z:基準面から水路底までの高さ
- h:水深
- V:平均流速
- g:重力加速度
- α:エネルギー補正係数
- 摩擦損失水頭:断面1と断面2の間で生じる水頭損失
です。
添字の1は断面1、添字の2は断面2を表します。
この式を言葉で表すと、
断面2の全エネルギー線の高さ
= 断面1の全エネルギー線の高さ + 断面間の水頭損失
となります。
つまり、下流側である断面1の全エネルギー線の高さに、断面1から断面2までの水頭損失を加えた高さと一致するように、断面2の水深を求めればよいことになります。
これが逐次計算法の基本的な考え方です。
断面1では水深を既知として設定します。そのため、通水断面積や流速、径深などを求めることができます。
断面1の水位は決める必要があります。計算では出発水位と呼ばれますが、河口では「河口の潮位」や流量と水深の関係式が明らかになっている「H~Q曲線水位」がある場合や限界流が生じている「落差工の水深」などが出発水位として水深を設定します。(平成9年度河川砂防技術基準[調査編]を加筆修正)
これにより、断面1の全エネルギー線の高さも計算できます。
一方、断面2では水深がまだ分かっていません。
水深が分からなければ、
- 通水断面積
- 流速
- 速度水頭
- 潤辺
- 径深
- 摩擦勾配
も決まりません。
さらに、断面1と断面2の間の摩擦損失水頭を求めるためには、断面2の流速や径深も必要になります。
そこで、まず断面2の水深を仮定します。
仮定した水深から必要な値を計算し、ベルヌーイの式を満足するか確認します。
満足しなければ水深を変えて、もう一度計算します。
まず、既知である断面1について計算します。
流速は、流量を通水断面積で割って求めます。
断面1の全エネルギー線の高さは、
となります。
断面1では水深が既知なので、この値はそのまま求めることができます。
次に、上流側である断面2の水深を仮定します。
例えば矩形水路で、水路幅を B とすると、通水断面積は、
となります。
流速は、
です。
また、通水断面積と潤辺から径深を求めます。
これによって、仮定した水深に対する断面2の全エネルギー線の高さを求めることができます。
次に、断面1と断面2の間で生じる摩擦損失水頭を求めます。
マニング式から摩擦勾配を求めると、
となります。(詳しくは【水理学コラム】実は「摩擦損失 hf の正体」こそがマニングの公式だった!? – 土木系情報サイト
したがって、断面1の摩擦勾配は、
断面2の摩擦勾配は、
となります。
「水路工」では、断面1と断面2の摩擦勾配の平均値を用いて、両断面間の摩擦損失水頭を求めています。
断面1と断面2の間の斜距離を L とすると、
となります。
つまり、断面1だけの摩擦勾配を使うのではなく、断面1と断面2の摩擦勾配を平均して、その区間の摩擦損失を求めます。
ここまでの計算で、
- 断面1の全エネルギー線の高さ
- 断面1~断面2間の水頭損失
- 仮定した水深による断面2の全エネルギー線の高さ
が求まりました。
ベルヌーイの式が成り立つためには、
となる必要があります。
したがって、
断面2の全エネルギー線の高さ
と、
断面1の全エネルギー線の高さ+水頭損失
を比較します。
両者の差を誤差とすると、
となります。
この誤差が0であれば、仮定した断面2の水深でベルヌーイの式を満足しています。
しかし、最初から0になることはほとんどありません。
そこで、断面2の水深を変更して再計算し、
となる水深を探します。
これが「水深を仮定して繰り返し計算する」という逐次計算法の中身です。
常流の場合の計算手順を整理すると、次のようになります。

詳細な説明は以下です。
- 下流側の断面1の水深を既知とする
- 断面1の全エネルギー線の高さを求める
- 上流側の断面2の水深を仮定する
- 仮定した水深から通水断面積、流速、潤辺、径深を求める
- 断面1と断面2の摩擦勾配を求める
- 両断面の平均摩擦勾配から区間の摩擦損失水頭を求める
- 仮定した水深から断面2の全エネルギー線の高さを求める
- 断面2の全エネルギー線の高さと、断面1の全エネルギー線の高さ+水頭損失を比較する
- 誤差が許容範囲に入らなければ断面2の水深を変更して再計算する
- 誤差が許容範囲に入れば、その水深を断面2の水深として採用する
- 求めた断面2を次の計算の断面1として、さらに上流へ計算する
逐次計算法では、常流の場合、下流側の既知水深から上流側の水深を順番に求めていきます。
基本となる関係は、
です。
つまり、
上流側である断面2の全エネルギー線の高さ
と、
下流側である断面1の全エネルギー線の高さ+断面間の水頭損失
が一致するように、断面2の水深を求めます。
断面2の水深を仮定して計算し、両者の差が0に近づくように水深を修正します。
そして、求めた水深を次の断面へ引き継ぎながら計算を繰り返すことで、水路全体の水面形を求めることができます。
参考資料
農林水産省「土地改良事業計画設計基準[水路工]」
河川砂防技術基準[調査編]

