鉄筋コンクリート構造物に必要な鉄筋ですが、鉄筋にはいろいろ役割がありさまざまな名称が付けられています。専門書を読むと様々な鉄筋の名前が使われていて、複雑な思いをすることがあると思います。今回はそれらの鉄筋の名称について解説いたします。また、正確な用語の説明はコンクリート標準示方書や道路橋示方書に記載がありますが、この解説ではそれなりにかみ砕いて表現してみました。
部材に必要な鉄筋(径、間隔、かぶりなど)を計算によって求めて配置された鉄筋です。示方書にはこのような記載となっていますが、少し分かりにくいと思います。
私なりの解釈では正鉄筋または負鉄筋のことで概ねよいのではないかと考えますが示方書にはこのようには書いてありませんので、参考に留めてください。
正鉄筋とは正の曲げモーメントに対して配置される主鉄筋です。正の曲げモーメントとは、床板やけた部材の下側に引張応力を生じさせる曲げモーメントのことを言います。
負鉄筋とは負の曲げモーメントに対して配置される主鉄筋です。負の曲げモーメントとは、床板やけた部材の上側に引張応力を生じさせる曲げモーメントのことを言います。
応力を分散させるために、曲げモーメントにより生じる引張応力に対して配置する鉄筋(正鉄筋または負鉄筋)に対して、直角に配置される鉄筋です。
ボックスカルバート、擁壁では単にまっすぐな直線の鉄筋でよく使われています。橋梁では上部工の床板で使われますし、橋台のフーチングや竪壁でも使われます。橋台の竪壁では配力鉄筋でも端部をフックにより定着することが求められています。
部材の軸方向に配置する鉄筋です。鉄筋が配置される向きで命名されたものと考えます。主鉄筋、正鉄筋、負鉄筋、引張鉄筋、圧縮鉄筋が該当すると考えます。
部材軸に対して直角方向に配置する鉄筋です。帯鉄筋やスターラップなどの鉄筋が該当します。
引張応力を負担する鉄筋になります。中立軸よりも引張側にある鉄筋はこれに該当します。
部材断面の有効高dを求める際は、コンクリートの圧縮縁からこの引張鉄筋の重心位置までとすることになっています。
引張鉄筋量の断面中の割合である引張鉄筋比を求める場合には、軸方向引張鉄筋の断面積の総和を部材幅b×有効高dの面積で除して求めます。
最小鉄筋量と最大鉄筋量を求める場合にはこの軸方向引張鉄筋の量を言います。
圧縮応力を負担する鉄筋になります。中立軸よりも圧縮側に配置します。曲げを受ける部材の場合一般に複鉄筋(引張側と圧縮側の両方に配置した鉄筋)となります。一般に部材の曲げ剛性を上げる効果があり、またクリープ変形や乾燥収縮による変形を小さくする効果もあります。したがって、たわみ変形量が問題になるような部材に配置すると良いとされています。
せん断力に抵抗するように配置される鉄筋で、下部工を扱う場合には帯鉄筋、中間帯鉄筋を指しますし、上部工を扱う場合にはスターラップと折曲げ鉄筋を指します。橋梁下部工の橋脚や橋台、上部工のけたではこれらを利用して設計を行います。
版のように薄い部材では、せん断抵抗に有効にせん断補強鉄筋を配置することが困難であるため、せん断補強鉄筋の補強効果を見込まないで設計をする必要があります。
正鉄筋または負鉄筋を取り囲み、これに直角または直角に近い角度をなす横方向鉄筋で、主に橋梁上部工のはりに使用されます。
正鉄筋または負鉄筋を曲げ上げ、または曲げ下げた鉄筋です。一般に引張鉄筋は、はりの中央部の最大曲げモーメントに対して設計するので、支点付近では余裕があります。その余裕のある引張鉄筋をはりの軸に対して45°の角度で曲げ上げる(下げる)鉄筋です。
柱の軸方向鉄筋を所定の間隔ごとに取り囲んで配置される横方向鉄筋です。
帯鉄筋のうち、円形あるいは楕円形に軸方向鉄筋を取り囲むものです。
帯鉄筋のうち柱の軸方向鉄筋を円形のらせん状に取り囲んで配置される横方向鉄筋です。小径の帯鉄筋ではらせん鉄筋が加工がしやすいと言われたことがあります。
はりや柱、壁のような構造物では曲げ応力とせん断応力の合成によって、構造物の軸方向に対し斜めの方向に引張応力が働きます。これを斜め引張応力といいます。鉄筋コンクリート構造物では、この斜引張応力によってひび割れが生じ、破壊を起こすことがあります。そして、斜引張応力に対して配置されるという意味の鉄筋を斜引張鉄筋といいます。また、橋梁上部工のねじりモーメントに対する引張応力に対して配置する鉄筋に対しても斜引張鉄筋と呼ばれていました。けたに配置される斜引張鉄筋は、腹鉄筋とも言います。
斜引張鉄筋もせん断補強鉄筋とほぼ同じ意味であると考えます。最新(平成29年版道路橋示方書)では斜引張鉄筋はせん断補強鉄筋と呼ばれています。平成24年道路橋示方書や少し前からある道路土工の擁壁工指針やボックスカルバート工指針では斜引張鉄筋という名称が使われています。
応力集中、温度や収縮によるひび割れに対して、用心のために用いる補助の鉄筋です。例えば、コンクリートの打ち継ぎ目付近やコンクリートけたのウエブの側面部分、また壁や床板の開口部周辺などです。
横拘束鉄筋とは主に橋脚において、軸方向鉄筋を取り囲む帯鉄筋と部材断面内に配筋される中間帯鉄筋から構成されます。耐震設計において、これらは部材の脆性的な破壊を防ぎ、必要な塑性変形能を確保するため軸方向鉄筋のはらみ出しを抑制する効果と横拘束鉄筋で囲まれるコンクリートを拘束する効果を発揮します。これもせん断補強鉄筋ですが、耐震設計上はこのような呼ばれ方をします。
鉄筋相互の間隔や所定の位置に鉄筋を組み立てるために配置される鉄筋です。これについても最小かぶりの規定を満足する必要があります。
鉄筋の役割や配置方法などによって呼ばれる鉄筋についてそれぞれ解説しました。これほどの呼ばれ方があるということはそれだけの役割があり、計算や検討がなされるということですね。特に横方向鉄筋については呼び名が沢山あると思います。また鉄筋についてどの名称を使うかは十分な理解が必要というとになると思います。