今回は、平成29年に道路橋示方書に導入さ入れた部分係数法や限界状態設計法について解説したいと思います。
また、照査としては「橋の耐荷性能の照査」と「橋の耐久性能照査」がありますが、今回は「橋の耐荷性能の照査」を対象として説明いたします。
耐荷性能の照査における状況
まず、耐荷性能の設計において状況の区分があります。その区分は「永続作用支配状況」「変動作用支配状況」「偶発作用支配状況」です。
「永続作用支配状況」は、常時又は高い頻度で生じ、時間的変動がある場合にもその変動幅は平均値に比較し小さいものです。例えば、構造物の自重、プレストレス、環境作用等が該当します。
「変動作用支配状況」は、しばしば発生し、その大きさの変動が平均値に比べて無視できず、かつ変化が偏りを有していないものです。例えば、自動車、風、温度変化、雪、地震動等です。
「偶発作用支配状況」は、極めて稀にしか発生せず、発生頻度などを統計的に考慮したり発生に関する予測が困難である作用です。ただし、一旦生じると橋に及ぼす影響が甚大となり得ることから社会的に無視できないものです。例えば、衝突、最大級地震動等です。
道路橋示方書Ⅰ共通編第2章橋の2.1橋の耐荷性能の設計において考慮する状況の区分より引用・加筆修正
橋の耐荷性能
橋の耐荷性能は、道路ネットワークにおける路線の位置付けや代替性、架橋位置や交差物件との関係等を勘案し、1)及び2)に規定する橋の耐荷性能1又は2とします。
また、橋の耐荷性能は、耐震設計上の橋の重要度を考慮して、Ⅴ耐震設計編にて設定する耐震設計上の重要度がA種の橋では橋の耐荷性能1を、耐震設計上の重要度がB種の橋では橋の耐荷性能2とすることを標準とします。
1)橋の耐荷性能1は、橋としての荷重を支持する能力の観点からⅰ)について、また、橋の構造安全性の観点からⅱ)及びⅲ)について、それぞれ所要の信頼性を満足する性能とする。
ⅰ)永続作用支配状況や変動作用支配状況において、部分的にも損傷が生じておらず橋としての荷重を支持する能力が損なわれていない状態を実現すること。
ⅱ)永続作用支配状況や変動作用支配状況において、ⅰ)に加えて、落橋等の致命的な状態に至らないだけの十分な終局強さを有している状態を実現すること。
ⅲ)偶発作用支配状況において、橋としての荷重を支持する能力の低下が生じているものの橋として落橋等の致命的ではない状態を実現すること。
2)橋の耐荷性能2は、橋としての荷重を支持する能力の観点からⅰ)およびⅲ)について、また、橋の構造安全性の観点からⅱ)及びⅳ)について、それぞれ所要の信頼性を満足する性能とする。
ⅰ)永続作用支配状況や変動作用支配状況において、部分的にも損傷が生じておらず橋としての荷重を支持する能力が損なわれていない状態を実現すること。
ⅱ)永続作用支配状況や変動作用支配状況において、ⅰ)に加えて、落橋等の致命的な状態に至らないだけの十分な終局強さを有している状態を実現すること。
ⅲ)偶発作用支配状況において、直後に橋に求められる荷重を支持する能力を速やかに確保できる状態を実現すること。
ⅳ)偶発作用支配状況において、ⅲ)に加えて、橋としての荷重を支持する能力の低下が生じているものの、橋として落橋等の致命的ではない状態を実現すること。
道路橋示方書Ⅰ共通編第2章橋の耐荷性能より引用・加筆修正
橋の耐荷性能の照査
橋の耐荷性能によってそれぞれの限界状態が設定されます。
(3) 橋の耐荷性能1 又は2 を満足する橋は,永続作用支配状況及び変動作用支配状況においてその状態が橋の限界状態1 及び3 を超えないことを,設計状況と限界状態の各組合せにおいて所要の信頼性を有して満足することを照査する。
(4) 橋の耐荷性能1 又は2 を満足する橋は,偶発作用支配状況においてその状態が橋の限界状態3 を超えないことを,所要の信頼性を有して満足することを照査する。
(5) 橋の耐荷性能2 を満足する橋は,偶発作用支配状況において,その状態が橋の限界状態2 を超えないことを,所要の信頼性を有して満足することを照査する。
道路橋示方書Ⅰ共通編第2章2.3橋の耐荷性能の照査より引用・加筆修正
限界状態
前述のとおり橋の耐荷性能1または耐荷性能2を決めて、それに限界状態1~3を設定しました。次はその限界状態はどのようなものかというものです。
平成29年度の道路橋示方書で、従来の「許容応力度設計法」に代わって導入され、部分係数法を基盤として採用されています。
限界状態は「橋の限界状態」として「橋の限界状態1」「橋の限界状態2」「橋の限界状態3」の3つがあります。
また、「上部構造,下部構造,上下部接続部の限界状態」としてこれも同様に3つあります。
そして「部材等の限界状態」としてこれも3つあります。
「橋の限界状態」を「上部構造,下部構造,上下部接続部の限界状態」で代表させ、「上部構造,下部構造,上下部接続部の限界状態」を「部材等の限界状態」で代表させることになっています。したがって、「部材等の限界状態」を設定することになり以下になります。
部材等としての荷重を支持する能力が確保されている限界の状態。
部材等としての荷重を支持する能力は低下しているもののあらかじめ想定する能力の範囲にある限界の状態。
これを超えると部材等としての荷重を支持する能力が完全に失われる限界の状態。
道路橋示方書Ⅰ共通編第4章4.3部材等の限界状態より引用・加筆修正
限界状態設計法による橋の耐荷性能の照査方法
限界状態設計法とは、構造物が安全に機能しなくなる可能性のある「限界状態」を明確に定義し、それぞれの状態に対して安全性を検証する設計手法です。
下記に示す照査式の左辺(作用の特性値×係数)が右辺の限界状態(制限値=抵抗の特性値×係数)より小さくなれば各限界状態を越えていないという事になります。式はそれぞれ係数を乗じる部分係数法となっています。
※これは照査の標準的な考え方を示しています。具体的な鉄筋コンクリートの場合には次の「鉄筋コンクリート部材の場合」にて限界状態1および限界状態3の照査方法を記載しています。
(1) 橋の耐荷性能の照査は,部材等の耐荷性能の照査で代表させてよい。
(2) 橋の耐荷性能の照査を部材等の耐荷性能の照査で代表させる場合には,永続作用支配状況や変動作用支配状況においては部材等の状態がその限界状態1 及び限界状態3を超えないこと,偶発作用支配状況においては部材等の状態がその限界状態1 又は2を超えないこと並びに限界状態3 を超えないことを照査することを標準とし,作用の組合せに対する部材等の状態が各限界状態を超えないことをそれぞれ所要の信頼性を有して満足することを照査する。
(3) 部材等の耐荷性能は,式(5.2.1)により確かめることを標準とする。
Σ𝑆i(γpiγqi𝑃i)≦ξ1ξ2ΦR𝑅(𝑓c,Δc) ································ (5.2.1)
ここに、
𝑃i :作用の特性値
𝑆i :作用効果であり,作用の組合せに対する橋の状態
𝑅 :部材等の抵抗に係る特性値で,材料の特性値𝑓cや寸法の特性値Δcを用いて算出される値
𝑓c :材料の特性値
Δc :寸法の特性値
γpi :荷重組合せ係数
γqi :荷重係数
ξ1 :調査・解析係数 標準を0.9
ξ2 :部材・構造係数
ΦR :抵抗係数
Σ𝑆i(γpiγqi𝑃i)≦ξ1ΦRS𝑅S ································ (3.5.1)限界状態1または2
Σ𝑆i(γpiγqi𝑃i)≦ξ1ξ2ΦRU𝑅U ····························· (3.5.1)限界状態3
ここに、
𝑃i :作用の特性値
𝑆i :作用効果であり,作用の特性値に対して算出される部材等の応答値
𝑅S :部材等の限界状態1 又は限界状態2 に対応する部材等の抵抗に係る特性値
𝑅U :部材等の限界状態3 に対応する部材等の抵抗に係る特性値
γpi :荷重組合せ係数
γqi :荷重係数
ξ1 :調査・解析係数 標準を0.9
ξ2 :部材・構造係数
ΦRS :部材等の限界状態1 又は限界状態2 に対応する部材等の抵抗に係る抵抗係数
ΦRU :部材等の限界状態3 に対応する部材等の抵抗に係る抵抗係数
道路橋示方書Ⅰ共通編およびⅢコンクリート橋・コンクリート部材編を加筆修正。
前述の「橋の耐荷性能の照査」では永続作用支配状況及び変動作用支配状況を考えた場合には、その状態が橋の限界状態1 及び3 を超えないとなっているので、そのように1と3を照査するとします。
曲げモーメントを受ける部材の限界状態1の照査では、制限値を算出する際の特性値は部材断面の降伏曲げモーメントMycとされており、それは「部材の最外縁の引張側鉄筋が降伏強度に達するときの抵抗曲げモーメント」とされています。
曲げモーメントを受ける部材の限界状態3の照査では、制限値を算出する際の特性値は部材断面の破壊抵抗曲げモーメントMucとされており、それは「部材の最外縁の圧縮コンクリートが終局ひずみに達するときの抵抗曲げモーメント」とされています。
許容応力度法では制限値は鉄筋およびコンクリートの許容応力度の決まった数値でしたが、限界状態設計法ではMyc、Mucを算出する必要があるため、照査が許容応力度法のようにはいかなくなりました。
降伏曲げモーメントおよび破壊抵抗曲げモーメントを求めるにはM-φ関係(曲げモーメントと曲率)を求めて算出しますが、我らが得意な関数電卓では到底算出できません。
ちょっとした鉄筋コンクリート構造物では許容応力度法が有効だと個人的には思います。
部分係数法
部分係数法は、新材料・構造の採用増加を期待して、作用や抵抗値のばらつきを考慮したうえで設計状況に対して橋や部材の限界状態を越えないことを確実に達成できるように、従来の許容応力度法が廃止され導入されました。上述の「限界状態設計法による照査の方法」での照査の中で使われている係数を乗じる過程がそれになります。
係数についてですが、作用側については、荷重組合せ係数γpがありますが、これは作用の特性値(曲げモーメントやせん断力)にγpを乗じます。
荷重組合せ係数γpは、死荷重だけでなく、活荷重や風荷重などの荷重が組み合わさった場合を考えた場合に、設計共用期間中(100年)でこの荷重の同時載荷の状況による特性値が、所要の確率でこの係数を乗じた値より小さくなるように設定したものです。
荷重係数γqは、個々の荷重自体のばらつきや設計共用期間中での変動を考慮して、個々の作用の特性値がこの係数を乗じた値より十分小さくするように補正するものです。
また、部材の抵抗側についても同様に、調査・解析係数ξ1 、部材・構造係数ξ2、抵抗係数ΦRを特性値(抵抗モーメント等)に乗じます。
調査解析係数ξ1 は、モデル化の不確実性や地盤の調査の質や量の影響を考慮した係数です。
部材・構造係数ξ2は、部材が機能不全に陥ったときの荷重伝達経路の多重性を考慮する係数です。例えば、主桁本数が違えば1本の主桁が座屈した場合に上部構造全体への影響も変わります。それを考慮する係数です。
抵抗係数ΦRは、製作・施工中に生じる残留応力、材料品質や実施工・加工に起因する材料強度や寸法等のばらつきなどを考慮したものです。新材料の開発に対応するために設定されました。
まとめ
限界状態設計法および部分係数法は、橋の耐荷性能を確実に確保するための手法で、荷重や抵抗の不確実性を部分係数で補正し、限界状態(1~3)に基づいて安全性を照査します。これにより、新材料や新構造の採用が促進され、橋の信頼性と耐久性が向上します。照査では、永続・変動・偶発作用支配状況ごとに適切な限界状態を設定し、部材等の抵抗が作用効果を上回ることを確認します。
詳細については道路橋示方書の各編に記載がありますので、ご覧ください。また、web上において通達「橋、高架の道路等の技術基準の改定について」でも解説はありませんが、同様の内容が確認できます。
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