グラウンドアンカー工(斜面安定)を解説

 グラウンドアンカー工は土砂や亀裂のある岩ですべり面の発生や亀裂の拡大により崩壊・崩落の恐れのある不安定な斜面に対して抑止力を与えて安定化させる工法です。具体的には、不安定な斜面の地表から想定されるすべり面や亀裂面以深の安定した地盤までドリルで削孔し、ワイヤでできたアンカー材を地中の安定した地盤にグラウト(セメントミルク)で定着させます。地表面側ではコンクリートの法枠や受圧板等の反力体に設けた孔にアンカー材の頭部を通して反力体上部よりアンカー材にジャッキにて緊張をかけ地表面に反力体を介して緊張力を伝達させます。それにより、不安定な斜面に抑止力を与え安定させるものです。

グラウンドアンカーの種類

 グラウンドアンカーには摩擦型アンカー、支圧型アンカー、複合型アンカーなどがありますが、ここでは特に利用が多い摩擦型アンカーである、摩擦引張方式と摩擦圧縮方式について説明します。

①摩擦引張方式

 摩擦引張方式はPC鋼より線に与える引張力が、PC鋼より線に付着しているグラウトにも引張を生じさせるためこのように呼ばれています。構造は次の示す②摩擦圧縮方式にくらべてシンプルな構造です。そのため、テンドン製作は工場のほか、現場製作も可能です。緊急を要する場合や、施工時に地質変化の確認により現場でテンドン長を変更する場合にも対応が可能です。それに限らず通常の施工の場合でも一般的に多く使われています。摩擦引張方式はグラウトにテンションクラックが生じやすいことが知られていますが、その対応として防食はPC鋼より線に塗装を行うなどの対応を行っています。反力体への定着は「くさび+ナット方式」が多く用いられています。これは大きなリング状のナットの中心を通るテンドンにくさびで定着する方法です。

②摩擦圧縮方式

 摩擦圧縮方式はPC鋼より線とグラウトが直接に接する部分が無く、耐荷体を通してグラウトに荷重を伝達させるためグラウトに圧縮の力が生じます。そのため①摩擦引張方式のようにテンションクラックが生じにくい構造となります。テンドン製作は工場製作となります。防食はテンドン全体を被覆材で覆い、ワイヤと被覆材の間を防錆油で充填させて防食しています。反力体への定着は「ナット方式」となります。ボルト状になったテンドン頭部をナットで締め付けるだけなので作業が容易です。そのことから維持管理でも作業性が良好です。

 アンカーの長さに関する説明を以下に示します。
 ①アンカー長とは、アンカー全体の長さをであり、アンカー体長とアンカー自由長の合計長さです。
 ②アンカー体長とは、地盤に対して力の伝達が行われているアンカー体の長さです。
 ③アンカー自由長とは、アンカー頭部のテンドン定着位置からアンカー体までの長さです。
 ④テンドンとは、引張力を伝達する部材として組み立てられたものです。
 ⑤テンドン長とは、テンドンの全長のことで、テンドン拘束長、テンドン自由長および余長の合計長さです。
 ⑥テンドン拘束長とは、テンドンに加わる引張力をアンカー体のグラウトに伝達させるために必要な部分のテンドン長です。
 ⑦テンドン自由長とは、アンカー頭部に作用する引張力をアンカー体まで伝達させる部分のテンドンの長さです。
 ※グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説を加筆修正

 

反力体の種類

①受圧板

 受圧板は切土斜面で整形された箇所に適用することが多いもので、コンクリートや鋼製の2次製品が主に採用されています。2次製品なので施工が早いことが現場で有利となります。凸凹地山でも適用が可能な受圧板もあり、受圧板の形になった鋼製有孔型枠に高流動コンクリートを現場で流し込んで作るものもあります。ただし、凸凹地山への適用性は次の②吹付法枠工の方がより凸凹に対応できます。

②法枠工

 法枠工は現場にて鉄製の網による型枠内に主にモルタルを吹付機によって吹付け、縦横の梁を持つ格子状の構造体を構築するものです。したがって、対象とする地盤が自然地盤で地表面が凸凹していても対応が可能となります。また一般的に受圧板よりも安価となります。ただし断面が600×600など大断面の場合にはそうともかぎりません。また、施工する地表面の支持力が小さい場合にはアンカー力による応力よりも支持による沈下防止のために枠断面が大きくなる傾向にあります。
 また枠内の排水を水切りとするか、水抜きパイプとするかの確認が必要となります。

まとめ

 グラウンドアンカー工は、地すべりや崩壊のリスクがある斜面を安定させるために使われる、非常に効果的な対策工法です。この記事では、特によく使われる摩擦引張方式と摩擦圧縮方式、それぞれの構造についての説明のほかメリットや施工上の特徴について紹介しました。また、受圧板と吹付法枠工といった反力体の違いにも触れ、地盤の状態に応じた工法選定の大切さを解説しました。適切なアンカー工の計画と施工は、斜面災害から地域を守る重要なステップです。これからも、現場での知見や技術の活用を通じて、安全で安心な社会インフラの構築につなげていきましょう。

 

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